日本の教育の評価

学力の国際比較

 日本の教育に対する評価というと、「画一的教育」「知識偏重」「詰め込み教育」「思考力などが育たない」などの意見がよく聞かれますが、実際のところはどうなのでしょうか。
 以下に、学力に関する国際調査の結果を簡単に示します。

 ①TIMSS(ティムズ)
 最新調査年:2019年
 参加国:小学校は58か国・地域、中学校は39か国・地域
 対象:小4(算数・理科)と中2(数学・理科)
    選択肢中心で、主に基礎力を評価。
 結果:(小学校)算数5位、理科4位
    (中学校)数学4位、理科3位

 ②PISA(ピザ)
 最新調査年:2018年
 参加国:37か国・地域
 対象:高1(読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシー)
    記述式中心で、主に応用力を評価。
 結果:科学的リテラシー2位、数学的リテラシー1位、読解力11位。


 日本の学生は基本、応用とも高い学力を身に付けていると言えそうです。ちなみにPISAを実施しているOECD(経済協力開発機構)による分析は次の通りです。

 ◆数学的リテラシー及び科学的リテラシーは、引き続き世界トップレベル。調査開始以降の長期的傾向としても、安定的に世界トップレベルを維持している。
 ◆読解力は、参加国平均より高得点のグループに位置するが、前回(6位)より平均得点・順位が低下。長期的傾向としては、統計的には大きな変化が見られない「平坦」タイプと分析される。

日本人の教育観

 アメリカの教育研究者のジェームス・スティグラーなどのように、海外には日本の高い学力の原因を真摯に調べている人もいます。スティグラーは、「日本では学力を決める要素としてより重要なのは、才能よりも努力だと考えられている」といいます。一方アメリカやドイツでは、努力よりも才能だとされています。
 例えばテストで悪い点を取った時、日本では努力が足りなかったと受け止めて、次の準備をしっかりしようとしますが、アメリカやドイツでは「才能がなかった」と判断してしまうので、次のテストに向けて周到な準備をするという行動にはつながりにくいでしょう。
 このような教育に対する考え方の違いが成績の差の根底にあるのではないかとスティグラーは考えたのです。

日本の教育は本当に悪いのか

 ここでもう1つ学力に関する国際調査の結果を見てみましょう。

 ③PIAAC(ピアック)
 最新調査年:2011年(第1回)(第2回調査は2022~23年に予定)
 参加国:24か国
 対象:成人(読解力、数的思考力、ITを活用した問題解決能力)
 結果:全部門において1位


 この調査は成人を対象にしており、大人になってからの学力を評価するものと言えます。この結果を受けて文部科学省は「30歳前後でピークを迎えた後,徐々に低下していく傾向にある他国に比べ,日本は加齢にもかかわらず高い学力を維持している」と評価しています。
 1990年代以降、日本は学校教育に対する改革を多数行ってきました。2000年代にはゆとり教育が本格的に導入され、2020年にも「アクティブラーニング」の導入を含め、再度教育改革が行われました。どちらの教育改革も、これまでの学校教育が知識偏重だったという反省から、より創造性を伸ばす教育へと移行することを目指したものです。
 しかし、上記のPIAAC調査の対象者は、1980~90年代の教育を受けた世代です。確かに旧来の日本の授業は一斉授業で見た目は古臭いかもしれません。しかし、どうやらこの古臭く見える教育は子どもたちの創造性を育むことに成功していたようなのです。
 こうして見ていくと、日本のこれまでの教育は、言われているほど悪かった訳ではなく、むしろ他国にも負けない優れた成果を出していると言えるようです。スティグラーの主張にもあったように、学習に重要なのは昔から変わらず「努力」です。目まぐるしく変化する学習環境に翻弄されることなく、目の前の課題に対して地道に努力していくことが大切なのです。